編集者コラム

2017.06.07

「意味」を変えるとモノの「価値」が変わる

 「デザイン思考」という言葉を聞いたことのある方も多いと思います。
 米国のデザイナーのデイヴィッド・ケリーを中心に、彼がつくったデザイン
 コンサルティング会社のIDEO(アイディオ)やスタンフォード大学などで、
 2000年代のはじめごろにビジネスへの応用が提唱された考え方です。


 そもそもは、「デザイナーの思考方法をビジネスでの問題解決にも使う」と
 いうのがその趣旨で、デザイナーではないビジネスパーソンが、さまざまな
 場面で「デザイナーのように考える」ことを目指しているそうです。


 いまや世界中の先進的な企業やコンサルティング会社、教育機関などがこの
 考え方を応用しているといわれていまして、弊社でも2年前の2015年8月に
 刊行した同テーマの書籍『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』
 がロングセラーになっています。
 おかげで、「デザインはビジネスの役に立つ」という考え方はけっこう広く
 浸透してきたのではないでしょうか。


 ただ、この「デザイン思考」も万能ではありません。


 この思考法の特徴のひとつは、ユーザーに接近し、観察することによって、
 彼らの感じ方・思考にできるだけ寄り添って「共感」することにあります。
 要するに「ユーザー中心主義」なんですね。


 こうした特徴があるので、すでにある商品の使い勝手や性能、あり方などを
 大きく改善する「漸進的なイノベーション」に非常に向いています。
 「漸進的」とは「少しずつ進む」「段階的に進む」といった意味ですね。


 しかし、この「ユーザーに寄り添うこと」は諸刃の剣で、ユーザー自身でも
 気づかない、思いつかないような「急進的なイノベーション」を起こすのは
 実はあまり得意ではありません。
 もちろん、デザイン思考自体もバージョンアップしていて、最近はこれらの
 点についても改善されている部分はあるのですが。


 ともあれ、それを補うものとして、特にヨーロッパを中心にいま注目されて
 いる考え方が「意味のイノベーション」です。


 イタリア・ミラノ工科大のロベルト・ベルガンティ教授の著作『デザイン・
 ドリブン・イノベーション』で提唱されたこの概念は、2010年発表の、EUの
 10年計画の中にも組み込まれ、欧州の最前線で使われているアプローチでも
 あります。


 商品の色やカタチを変えるだけではなく、商品の「意味」を変えることで、
 その価値を飛躍的に高める。
 この考え方は極端に言えば「商品やパッケージはそのままでイノベーション
 を起こす方法」であり、ヨーロッパの多くの中小企業がいま経営戦略として
 絶賛取り入れ中なのです。


 この考え方の例としてよく言われれるのが「ロウソク」です。


 電灯が発明されて、普及していくとともに、時代遅れのロウソクはどんどん
 売れなくなってきました。
 熱くて火事の原因にもなるし、すすが出るし、設置場所も含めて取り扱いも
 面倒ですからね。
 多くの家庭では「停電した時の非常用にあればいい」という扱いでした。


 しかし蛍光灯を経てLEDの時代になっても、ロウソクは売れ続けています。


 多くの場合、非常用ではありません。
 食卓で雰囲気を楽しむため、特別な時間にムードを演出するために使われる
 という新しい「意味」が加わったことで、新しいニーズが生まれています。
 これはロウソクそのものが変わったわけではありません。
 ロウソクの持つ「意味」が変わったのです。


 4月末に弊社で刊行した『デザインの次に来るもの』は、日本人向けにこの
 「意味のイノベーション」を本格的に解説する本です。
 売れ行き好調で、さっそく重版がかかりました。ありがとうございます!


 本書のノウハウとしては、中堅・中小企業が、自社の経営資源を活かしつつ
 他社と差別化を図り、長期的に売上を伸ばすことに向いています。


 特に、「雑貨や家具・照明器具」といった非テクノロジー分野で効果の高い
 考え方でして、本書の中でも、イタリアの著名な生活用品のメーカーである
 アレッシィや、高級自動車メーカーとして知られるアルファ・ロメオなどの
 事例が取り上げられています。


 主にビジネスパーソン向けに、デザインの世界潮流からビジネスへの応用、
 デザイン思考の長所や短所といったポイントをざっくりつかみつつ、「意味
 のイノベーション」を解説した本書。
 特に経営者や商品開発、マーケティング部門の関係者は、ぜひご一読を!


 【デザインの次に来るもの】

https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4295400807/cmpubliscojp-22/