編集者コラム

2016.11.02

アメリカはもう「トランプ的」なものを無視できない!?


 過去数十年単位で、ここまで不人気な候補同士の対決となったのは初めてと
 言われるアメリカ大統領選挙。
 いよいよ11月8日の投票まであと数日となりました。


 しばらく前の東京都知事選も「ハズレしかないようなガチャを引く選挙」と
 揶揄されていましたが、世界への影響力でいえば比べるべくもありません。


 かたやトランプは「クリントンによる銃規制を阻止するのは、銃規制反対派
 かもしれない」と8月に発言。ジョークながらも暗に暴力や暗殺を示唆する
 発言として批判を巻き起こし、支持率を落としました。


 クリントンの有利に傾くかと思われた矢先、彼女はアメリカ同時多発テロの
 追悼式典を体調不良で中座。「健康に不安がある」というイメージがついて
 リードを広げきれません。


 10月の第2回の大統領候補テレビ討論会直前には、トランプが10年以上前に
 テレビ司会者との雑談の中で漏らした卑猥な女性蔑視の発言を収めた録画の
 テープがワシントン・ポストに暴露され、再びトランプの支持率が下降。


 そうかと思えば数日前、7月に不起訴となっていたクリントンのメール問題
 (国務長官時代に、機密事項を含む公務に私用メールを使っていた問題)に
 関して、FBIがあらためて捜査を始めたというニュースが報道されたため
 またもトランプが息を吹き返す、という感じで、お互いに「走っては転び、
 抜いたほうがまた転び」という足の引っ張り合い……にさえならない壮絶な
 転び合いになっています。


 もともと公職についたこともなく、政治経験ゼロのトランプだけに、普通に
 考えれば何か一つでも大きな問題が起これば、再浮上は難しいはずですが、
 上記のように何度もカムバックしてきているのは不思議に思えます。


 実は彼ほど長期にわたり有名人であり続けている財界人はあまりいません。
 度重なる失言・暴言でいかにも「無分別なアウトサイダー」的な印象が強い
 トランプですが、彼の人生をたどってみると、その時代、その時代で、常に
 「時代の空気」にしっかり寄り添って生きてきたことがわかります。
 どこまでが計算かは別として、そのような「空気」を嗅ぎつけ、嗅ぎ分ける
 能力に関しては天才的なところがあるのがトランプなのです。


 トランプは、「庶民の味方で、すぐ近くにいる、理解あるお金持ち」という
 イメージを巧みに演出していますが、実はアメリカでも最富裕層の出身で、
 その交渉術や財力はもちろん、人々のイメージや、漠然とした不安・恐怖、
 メディアパワーなど、あらゆる要素、そして現代アメリカの抱えるあらゆる
 グレーな部分を利用しながら、良くも悪くも注目を集め続けてきました。


 つまり、トランプが生きてきた道筋をたどることは、現代のアメリカに潜む
 矛盾や不安、問題点を知ることにほかなりません。


 9月末に発売した『熱狂の王 ドナルド・トランプ』は、ジャーナリストの
 世界の最高峰の賞である「ピュリッツァー賞」受賞者の著者が、実に3年の
 取材時間をかけて、現代のアメリカが生んだ「ドナルド・トランプ」という
 怪物に迫ります。


 本書の解説を務める慶應義塾大学の渡辺靖教授は「たとえ負けるにしても、
 大差で負ければ共和党の執行部は胸をなで下ろすだろうが、僅差で負ければ
 今後アメリカは、『トランプ的なもの』を無視できなくなるだろう」という
 趣旨で解説をされています。


 ここまで「予想以上の僅差」で推移している選挙戦。その意味では、たとえ
 「ハズレしかない選挙」であっても、今後のアメリカの大きな潮流をを決定
 づけるかもしれない重要な選挙です。
 アメリカ国民はもちろん日本人も、選挙の結末からは目を離せません。


 トランプの地元紙(だからといって支持しているわけではないのですが)の
 「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」などの高級紙のほか
 イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」などでも絶賛された渾身の一冊、
 この機会にぜひご一読ください。


 【熱狂の王 ドナルド・トランプ】
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4844374982/cmpubliscojp-22/